椅子に座る。お尻のあたりが痛くなる。立ち上がって、足を引きずるようにして歩く。
前は、歳を取った人がそうやって歩いているのを見て、老化なんだろうな、とぼんやり思っていた。いま、自分が同じことをしている。
ただ、実際になってみて一番こたえたのは、足でも腰でもなかった。頭だった。
「痛みで集中できない」は、気持ちの問題ではなかった
椅子に座っていると、痛みで脳のリソースを持っていかれる。少なくとも、自分の実感はそれだ。
医学的にどういう仕組みでそうなるのかは、自分には説明できない。専門家ではないし、断定できる立場でもない。ただ、感覚としては「痛みが後ろでずっと動いていて、その分だけ考えるほうが遅くなる」に近い。気合いを入れれば戻る、という種類のものではなかった。
たぶん、これは誰にでも身に覚えがある感覚だと思う。睡眠不足の翌日。食べ過ぎた翌日。旅行で疲れた後。あの「頭が回らない日」の状態が、終わらずに続く。それが慢性の痛みだったり、他の病気だったり、歳を取って足腰が弱くなることだったりする、というだけの話だ。
自分が集中できないのは、たるんでいるからだと思っていた時期がある。いまは、そうは思っていない。
鎮痛剤を飲んでも、頭が働くのは1日1時間だった
痛み止めを飲めば、痛みは減る。ただ、自分の場合は疲れやすくなって、1日1時間も頭が働かなかった。
1時間働けるならまだいいほうで、実際はそれより短い日もあったと思う。薬を飲んだから普通に仕事ができる、という状態には戻らなかった。
薬の種類も効き方も人によって違うはずなので、ここは自分のケースとして読んでほしい。合う薬・合わない薬、飲む量やタイミングは主治医に相談する話であって、他人の体験談で決める話ではない。
その1時間で、何を考えていたか
問題は、その1時間の使い道だった。
実際に何を考えていたかというと、病院の予約をどう取れば効率的か。いまの病院に行き続けるべきかどうか。家賃を落とすために引っ越すなら、業者をどう選ぶか。ガスコンロをどこで買うか。国民健康保険はどうなっているのか。ハローワークにいつ行くのか。
つまり、生活を回すための予定を、痛くなくてパソコンに向かえた時間で組み立てていた。将来の話や仕事の話は、その列の後ろに並んでいた。
書き出してみると地味だが、どれも「決める」作業だ。頭が働かない日は、この列が1日分そのまま止まる。痛くて動けないことより、決められないまま積み残していくことのほうが、じわじわ効いてくる。
働けないの中身は、体力ではなく「判断する力」だった
会社員だった頃、自分の生命線は「椅子に座ること」だった。パソコンに向かって調べて、資料に落とし込んでいく。チャットやメールを返すのも同じで、座れていることが全部の前提になっていた。
その椅子に座るという行為が、痛みでできなくなった。
そのとき初めて気づいたのは、デスクワークで実際に使われていたのは椅子でも時間でもなく、脳のリソースのほうだったということだ。座っている時間が長いから仕事が進んでいたのではない。頭が動いていたから進んでいた。座れなくなって、その順番がやっと見えた。
だから、「働けない」と一言で言っても、中身は人によって違う。工場なら、投下した労働時間や機械の稼働が土台になる。営業の人なら、訪問して契約を取るところまで体が動くかどうか。デスクワークなら、調べて資料にして、承認をもらうところまで頭が持つかどうか。同じ「働けない」でも、どこが折れたのかは全然違う。
自分の場合は、判断する力のほうから先に削られた。体力が落ちたから考えられないのではなく、痛みに持っていかれた分だけ考えられない。順番が逆だった。
頭が働かない前提で、やり方を3つ変えた
戻るのを待っていても始まらないので、頭が1日1時間しか働かない前提でやり方を変えた。特別なことはしていない。やめたことのほうが多い。
①ノートをやめて、音声入力にした
前までは、考えたことをノートに書いて、図式化して、それを清書していた。
これができなくなった。1日1時間頭が働くか働かないかという状態で、その時間はお金のことや病院のことに使わざるを得ない。ノートを書いている余裕がない。だから音声入力一択になった。
最初は精度が低くて、書いたものをどう直すかをずっと模索していた。それが形になったのは、去年の12月に試験的に書き始めてからだ。手を動かす工程を減らして、喋るだけにする。それだけで、残っていた1時間が少し延びた。
②調べものを、自分の頭から外に出した
調べものは、生成AIにさせるようにした。
ただ、AIの答えにも偏りがかかる可能性がある。だから、それまで一つしか使っていなかったものを、二つ目も入れて、両方に壁打ちしながら進めている。
自分でも書いていて思うが、これは効率化の話というより、頭が働かない時間帯にもできることを増やす話だ。調べる工程を外に出せば、残った時間を「決める」ほうに回せる。
③相談する相手がいない前提で組み立てた
会社にいた頃は、上司に相談しながら不安を解消していた部分があった。いまは、その上司がいない。
これは思っていたより大きくて、判断の重さがそのまま自分の1時間にのしかかってくる。壁打ち相手を二つに増やしたのも、半分はこれが理由だ。答えをもらうためというより、一人で考え続けて時間を溶かさないため、という感覚に近い。
これは、病気の人だけの話ではないと思う
痛みで頭が働かない、と検索してここに辿り着いた人は、たぶん自分と似た場所にいる。
言いたいのは一つだけで、集中できないのを自分の性格や気力のせいにしなくていい、ということだ。少なくとも自分の場合、原因は痛みの側にあった。痛みが減った日は、同じ人間の同じ頭が、普通に動いた。
そして、これは病気の人だけの話でもないと思っている。介護や育児で自分の時間が細切れになっている人も、構造としては同じところにいる。手持ちの時間ではなく、手持ちの「頭が動く時間」のほうを数えて、その中で何を先に置くかを決める。いまの自分がやっているのは、それだけだ。
もうひとつだけ書いておくと、病気は、いつでも誰の側にも来る。来たときに全部が止まらないように、頭が動かない時間帯でも回る形にしておく。予防できるものは予防して、それでも来る分は、道具の力で埋める。そういう考え方を、痛くなってから初めて持った。もっと早く持っておけばよかったと思っている。
記録として、ここまで。
よくある質問
- Q. ヘルニアだと、なぜ頭が働かなくなるのか。
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A. 医学的な仕組みを筆者が断定することはできません。実感として書けるのは、痛みが常にある状態だと、考えるほうに回せる余力が明らかに減るということです。睡眠不足の翌日や、疲れが抜けない日の「頭が回らない感じ」が、終わらずに続く状態に近いと感じています。原因や対処は人によって違うので、気になる症状は必ず主治医に相談してください。
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Q. 鎮痛剤を飲めば、集中力は戻るのか。
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A. 筆者の場合は戻りませんでした。痛みは減りましたが疲れやすくなり、まともに頭が働くのは1日1時間ほどでした。薬の種類も効き方も人によって違うため、これは一例です。薬を増やす・変える・やめるといった判断は、体験談ではなく主治医との相談で決めてください。
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Q. 頭が働く時間が1日1時間しかないとき、何から手をつけたのか。
- A. 「決める」ことを先に置きました。病院の予約、引っ越しの検討、保険の確認など、判断が要るものをその1時間に寄せています。逆に、手を動かすだけの作業は頭が働かない時間帯に回しました。やり方としては、ノートに書いて清書する流れをやめて音声入力に切り替えたこと、調べものを生成AIに任せて自分の頭から外に出したことの2つが効いています。